パワハラ防止法の罰則、企業・加害者の責任

はじめに
厚生労働省統計のハラスメントの相談件数が増え、ハラスメントの報道も無くなりません。
私自身を含め誰もが加害者、誰もが被害者となる可能性があります。
有る中学1年生の自死が、第三者委員会からいじめと認定され、学校に相談していたにもかかわらず、学校側が適切な防止措置を怠り放置し、そして誰一人処罰されませんでした。
ここには、様々な問題が潜んでいますが、これを機に、ハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の特にパワハラ防止法(労働施策総合推進法)の罰則、企業責任、加害者の責任はリスクとして時間がかかり、精神的にも大きな負担、損害賠償金の負担等があり、防止対策として、知っておく必要性があります。
パワハラ防止法の罰則について
ご存知のように、パワハラ防止法(2022年4月)が全ての企業の義務となりました。この法律はパワハラの基準、相談を受ける体制整備する等雇用管理上の措置義務を述べていますが、これを守らなかったとしても罰則規定はありませんので、処罰されません。
但し、問題がある企業には、行政(厚生労働大臣)が指導・助言又は勧告が入ります。この是正勧告を受けたにもかかわらずそれを是正しない場合、企業名が公表されます。
また、企業に対して、パワハラに対する措置と実施について、報告を求めることが出来るとあります。それに対して報告をせず、虚偽の報告をした場合、20万円以下の過料が課せられます。申し添えると過料は行政上の秩序罰で刑事罰ではありません。
会社でパワハラが起きたときの責任
パワハラ防止法には上記に説明したように、罰則規定はありませんが、他の法律で責任が課せられます。
①使用者の責任
会社で、パワハラが仕事に関連して行われた場合、使用者責任が問われますし、パワハラを容認していてそれを放置しているときも使用者責任が問われます。具体的には故意または過失により他人の権利を侵害した者は損害を賠償する責任(不法行為による損害賠償責任 民法709条)があります。
また、使用者は使用する労働者が第三者に損害を与えた場合損害賠償責任(特殊の不法行為責任 民法715条)を負うことになります。
使用者は、労働契約に伴い、労働者に対し、働きやすい環境を整える義務(安全配慮義務)(労働契約法5条)があり、使用者がパワハラを放置したり、是認したりしていると使用者が労働者に対して労働契約上負っている債務不履行責任が認められ安全配慮義務違反の責任(民法415条、国家賠償法1条)に問われることがあります。
その他労災補償責任があります。
②加害者の責任
パワハラの加害者には、これを受けた労働者の権利の侵害や損害を発生させたと認められる場合、民亊上の不法行為責任による損害賠償責任(民法709条)を負うことになります。
また、刑事上の責任として、暴行罪、傷害罪、侮辱罪、名誉棄損罪、脅迫罪、脅迫罪等がありますが、被害者が告訴して、検察が加害者の行為が犯罪になると認められると刑事訴訟となり、有罪になることもあります。
その他会社の就業規則により懲戒処分を受ける可能性もあります。最悪の場合、懲戒解雇となることもあります。
まとめ
パワハラ防止法の罰則、パワハラの企業の責任、加害者の責任について概略を述べましたが、何より大切なことはパワハラの被害者を出さないための予防ではないかと思います。起きてしまった場合は真摯に取り組み、再発防止策を企業の存続のリスクがあることを意識して、取り組んでほしいと思います。
また、個人には、加害者とならないように、自分が正しいと思う事と相手が正しいと思う事が異なることを認識し、指導する場合は相手がどのようになれば良いか目的を明確にして相手に気付いてもらう努力は欠かせません。
被害者となった場合、相談すること自体ハードルが高いですが、一人で悩まず、会社に相談して納得できないときは、その他の相談先(都道府県労働局、弁護士等)に相談するなどしてほしいです。
会社、各人がパワハラ防止法の知識をもう一度確認することにより、1件でも減らすことができるのではないかと思います。
なお、冒頭でお話ししました中学性の遺族はその後損害賠償を求めて裁判所に提訴しました。遺族の気持ちとして、もう二度とこのようなことが無いようにしたいという思いが推察されます。その遺族の気持ちがいじめの抑止、再発防止に繫がることを祈ります。
著者:SRCパートナーコンサルタント 西村 多加枝

社会保険労務士
ハラスメント防止コンサルタント
産業カウンセラー
キャリアコンサルタント