パワハラによる労災申請の増加とその対策

令和3年度の精神障害の労災補償状況―「パワハラ」原因125件で過去最多 

 令和4年6月24日に公表された厚生労働省「令和3年度 精神障害の労災補償状況」いよると、仕事が原因でうつ病などの精神障害を患い、労災と認定された支給決定件数は629件で過去最多(前年度比21件増)でした。(表2-1)

出所:厚生労働省「令和3年度 精神障害に関する事案の労災補償状況」

 支給決定(認定)の629件を出来事別でみますと「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が125件と最も多く、次に「仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」が71件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃」が66件となっています。

 「出来事」とは精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、認定基準において、一定の事象を類型化したものです。

精神障害の労災認定基準に「パワハラ」項目が追加

 令和2年6月から改正労働施策総合推進法が施行され、パワハラの定義が法律上規定されたこと等を踏まえ、認定基準の「業務による心理的負荷評価表」にパワーハラスメントが明示されました。

 精神障害の労災認定には、以下の3つの要件が定められています。

精神障害の労災認定要件

  1. 認定基準の対象となる精神疾患を発病していること
  2. 認定基準お対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したと認められないこと

 令和2年の改正により、業務による強い心理的負荷の有無を判断するための基準である「業務による心理的負荷評価表」にパワハラの項目が追加されました。

出所:厚生労働省「精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」を明示します(R2.06)」

 パワハラのみで心理的負荷の強度が「強」となるのは下記のようなケースに限定されています。

 ○上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

「強」である例

  • 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
  • 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
  • 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
  • 人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
  • 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
  • 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

「パワハラを原因」とする労災申請増加

 業務による心理的負荷(ストレス)表が明確化・具体化されたことで、パワハラを原因とする労災申請が増加しています。

 パワハラは、業務における様々な要因が複合的に絡み合って発生します。

 コミュニケーション不足への対応だけではパワハラは防止できません。

 労災申請増加への対応策として、職場環境を整える作業環境管理、作業管理、健康管理、安全衛生管理体制確率、労働安全衛生教育の労働衛生の5管理の視点からハラスメント防止対策に取り組んでいく必要があるといえます。

 中でも長時間労働の削減が重要です。ハラスメント防止対策は、労務管理の専門家である社会保険労務士にご相談ください。

 

このコラムは、2022年9月20日配信のメルマガに掲載されたものです。

著者:SRCハラスメント防止コンサルタント 沼田博子

大阪府出身。関西大学大学院商学研究科卒
流通業、人材派遣業を経て社会保険労務士として開業
1996年 社会保険労務士事務所 開業
2001年 有限会社マンパワーマネジメントシステムズ設立 取締役就任
2015年 一般社団法人SRストレスチェック支援センター
(現、未来のワークデザイン研究所)設立 代表理事 就任
2016年~2020年 関西大学会計専門職大学院 非常勤講師
2017年 社会保険労務士法人ハーネスに組織改編 代表就任

保有資格

特定社会保険労務士、シニア産業カウンセラー、ハラスメント防止コンサルタント、キャリアコンサルタント、アンガ―マネジメントファシリテーター、
アンコンシャスバイアス認定トレーナー、プロティアン認定ファシリテーター
衛生工学衛生管理者、公認不正検査士、リフレクションカード・トレーニングプロ

主な業務内容

・労務相談
・心と身体の健康管理(メンタルヘルス・ハラスメント対応含む)
・多様な働き方制度設計(週休3日制、短時間正社員、テレワーク、再雇用制度)
・両立支援(育児・介護・疾病等)のための人事制度構築
・賃金・人事評価制度見直し(ジョブ型、同一労働同一賃金対応)
・高齢者活用(キャリアデザイン研修)

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