管理職の健康管理がパワハラを防止する

まずは睡眠から

パワハラ防止研修のとき、「そんなこと初めて聞いた」と受講者の方に言われる内容があります。

実際に使っているスライドをお見せしましょう。

このスライドの1にある「自分のストレス状況を観察し、セルフケアに努める」という部分です。
とくに、睡眠について、時間をとってご説明しています。

ほとんどの人が、睡眠不足になると、イライラしたり、集中力・判断力がなくなってきます。
そのような睡眠不足の弊害が怖いのは、ご本人は自分のパフォーマンスが落ちていることに気づかない点です。

そして、このように考えています。

「自分は短い睡眠で足りている」
「イライラするのは、周囲の状況からストレスを感じているからだ」

ところが、なんらかのきっかけで、睡眠を7時間以上とるようにすると、あら不思議、周りの状況はとくに変わらないのに、イライラしなくなります。
いままでなら、「少しは自分で考えたら?」「どうしてこんな簡単なことができないんだ!」という気持ちを押し殺して、でも押し殺しきれず、語気荒く部下に指示・説明していたことも、おだやかにできるようになってきます。

管理職が自分の心身の健康状況に気を使い、とくにストレスコントロールを意識すると、本人のパフォーマンスだけでなく、部署全体の雰囲気やパフォーマンスも変わってきます。
自分のことも含めて、このことをアドバイスしたお客様から、何件もそのような効果を伺っています。

睡眠の効果は顕著ですが、それ以外にも、炭水化物に偏った脂っこい食事を見直して、野菜を多く摂るようにする、毎日軽い運動をする、家族や友達と日帰りレジャーを楽しむ、等の対策も、バカにできない効果があります。

パワハラ防止というと「言葉の使い方に気をつけましょう」「法律的な定義はこのようなものです」という内容かと思っていたら、講師は真顔で「自分自身を大切にしてください」と言っている。
これが受講者の方たちからすると、とても意外だし、印象的だということです。

会社が管理職の健康増進の後押しを

管理職になる年代は、40代以降ということがほとんどでしょう。

心理学的には中年は危機の時代と言われます。

体力の衰えを感じ、生活習慣病の危険性が出てくるのもこのころです。
お子さんの受験、親御さんの介護、そして夫婦仲は秋風が立ってくる、等の家庭内の問題も出てきます。
さらに、昇進して職場での責任は重くなってくる・・・

そんな中で、長時間労働から睡眠不足となり、食事に気を使う気力もなく、運動をするヒマもない、となったらどうでしょうか。

いつも不機嫌で、部下に当たり散らす上司になってしまう危険が高いでしょう。

これを防止するためには、本人の努力だけでは難しいですね。
とくに、長時間労働は会社がきちんと対処しないと解決することができません。

管理職になると残業がつかないからと、労働時間の管理が本人任せになっていないでしょうか。
2019年の労働安全衛生法の改正で、管理監督者についても労働時間の管理が会社に義務付けられていますが、3年経った現在でも、浸透しているとはいぜず、旧態依然の会社が多く見られます。

法的な義務を遂行しなければならないのはもちろんですが、管理職の健康を守ることが、本人だけでなく、部署全体のパフォーマンスにも関わってくることを、会社はもっと自覚すべきです。

パワハラ事案が起こり、被害者も行為者も不幸になることを防ぐためにも、重要な取り組みです。

労働時間の管理、健康的な生活をするための情報提供、健康診断の結果の把握と要検査の場合の再検査勧奨、会社ぐるみで「歩こう運動」を行う等、会社の取組はいくらでも考えられます。

パワハラ防止のために、管理職にさまざまな要求をすることはしかたがありませんが、「あれやれ、これやれ」だけでなく、管理職をサポートすることでパワハラ防止ができることを知っていただきたいものです。

このコラムは、2022年4月20日配信のメルマガに掲載されたものです。

著者:SRCハラスメント防止コンサルタント 李怜香

社会保険労務士
産業カウンセラー
ハラスメント防止コンサルタント
健康経営エキスパートアドバイザー

略歴

岐阜県生まれ。早稲田大学卒業。
1999年 社会保険労務士登録し、李社会保険労務士事務所(現 メンタルサポートろうむ)開業。
2011年 産業カウンセラー登録。
2012年 ハラスメント防止コンサルタント認定。公益財団法人21世紀職業財団ハラスメント防止客員講師に就任。
2013年~2019年 厚生労働省委託事業 パワハラ対策取組支援セミナーに登壇。
2016年~2017年 厚生労働省委託事業にて女性活躍推進アドバイザーとして活動。
2019年 健康経営エキスパートアドバイザー認定。
2020年 栃木県保健衛生事業団ハラスメント相談事業コンサルタントに就任。
2021年 厚生労働省委託事業 職場におけるハラスメント対策総合支援事業 派遣専門家として活動。

主な業務内容

・労務相談
・研修
・セミナー講師
・ハラスメント外部相談窓口
・ハラスメント事案に関するコンサルティング
・ハラスメント事案のヒアリング調査


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