母親の介護で考えるハラスメント防止

一人暮らしをしていた母が、度重なる転倒、骨折、入院をきっかけにわが家に同居するようになってから数年が経つ。かつては当たり前のようにできていたことがだんだんとできなくなってくる母は、いらだちや不平不満が増えていく。家族も予定通りにならない日々に疲弊していく。

親の思い

昔気質の母親は、人に迷惑をかけることを嫌がる。デイサービスで手を取る利用者が気に障ってしょうがない様子。母も支えがないと立つことも歩くこともできない状態だが、「ちゃんとできない」ことで、人の手を煩わせることが辛い。「あんなになったらどうしよう、生きとらんでええ」と繰り返す。他人に迷惑をかける自分には価値がない、情けないと涙ぐむ。一方で言い訳やごまかすことも多くなる。忘れてしまうことを取り繕い「自分はきちんとしている」と訴えつつ、内情は不安が大きい様子。

家族の思い

介護は、時間や労力を必要とするだけでなく、感情面でも大きな負担を伴う。予想が外れ予定が変わる日常に、焦燥感や時には怒りが湧き上がる。やってほしくないことを繰り返し行ったり、隠したり、ごまかされたりすると「正直に言って!」と口調がきつくなる。

本当は、母親には機嫌よく快適に暮らしてほしい、そのために役に立ちたいと思いながら、愚痴と不満を毎日言われるので、そのたびに慰めたり、たしなめたり、説得したりしようと試みると、反発されたり、泣かれたりする。「あんたには分からん!」と。
親子で遠慮がなければ、言い合いになることも多い。失われていく母親の能力に、不安と恐れを抱くのは子も同じ。余裕がなくなり、とにかくこちらの言うことをきかせようとして、ちっともその通りにはならなくて、関係性が悪化する。
だんだんと、これはハラスメント行為をしているのではないかと不安になる。

ハラスメント防止のために

ハラスメント防止には関係改善が欠かせない。さてどうしたらよいだろうか。
意識したことは次の3つ

  • 善悪の評価をしない(生産性より関係性)
  • 相手のせいにしない。(怒りの原因は自分にある)
  • いい子にならなくていい(100点を目指さない)

①善悪の評価をしない(生産性より関係性)

私たちは子供のころから評価をされることが多かった。試験や成績、ノルマ達成や生産効率等。正解が多く、やることは早く、売れるものをたくさん作ることが「善い」ことと認識してきた。そして人間には「正したい欲求」があるらしい。間違いは正さなくてはいけない。「正しくない」と大変なことになるという恐れを感じる。しかし、正しさは人や状況によって違うことが多い。自分が考える正しさにこだわり、関係性を悪化させることは本末転倒。正そうとすることを振り返ると、必ずしもそうしなくてもいいのではないかと考えることが多いと気づく。母の中ではそれが正解。母を否定しないことを心がけた。

②相手のせいにしない。(怒りの原因は自分にある)

怒りは自分の中に原因がある。
母親の希望する介護用品等を買ったつもりなのに「これではない、合わない、気に食わない、使わない」と言われ、腹が立つ。母が素直に言うことを聞いてくれないことや、母から「言い訳、ごまかし、不平不満」を聞くことも腹が立つ。
怒りが起こる原因は、母を心配・不安に思う気持ち、自分が良かれとした言動を否定された気持ち、役に立てずがっかりした気持ちから湧いてくる。
しかし、よく考えてみたら、起きたことは母の価値観による自由な言動。私を否定するものではないのに、怒って、反対に私が母を否定していたことに気づく。
「役に立ちたい」という価値観はやっかいだ。介護でも、それ以外でも、人と関係性を築くことは、「役に立つ」ことではないのだろう。ただそばにいれば良い。くだらないことを言いあって笑いあえればそれでいい。立派な説教も提案も要らない。ただそこにいて、否定されないという安心感があればいい。
そう考えても簡単ではない。自分にも他人に対しても否定せずに向き合いたいと思いながら、それができない自分も受け止めたい。

実際、自分が家族に話しかけるとき、解決策を求めてはいない、課題や間違いを指摘されたいのではない。それらはほぼ役に立たない。少しだけ感情に寄り添ってほしいだけ。それは母も同じなのだろう。

③いい子にならなくていい(100点を目指さない)

100点を目指さなくてもいい、こうあらねばならないと思わなくてもいい。
頑張る完璧主義の母に対してそう思う。できないことを苦しまないで、できないことはできないで良いと思うことができればいいのに。
そういう私が母の介護で苦しむ。ちゃんとできない、関係性も悪くなる。
母子ともに似たようなものだと感じる。何故いい子になろうとするのか。いい子でないと好かれないと思うのかもしれない。

共にいること

共にいよう。100歳を超えた母と残された時間は多くない。心を乱されながらも、時に優しい気持ちになれるときに、笑いあえたらうれしい。 母は忘れることが増え、自分の変化に戸惑いと混乱の中にある。やがては自分も老いる。これは母が最期に教えてくれる将来の自分の姿なのかもしれない。

著者:SRCパートナーコンサルタント 五百川 篤子

くわしいプロフィール

略歴・資格等

山口県生まれ。山口大学人文学部卒業。
2015年 社会保険労務士登録
2016年 医療労務コンサルタント
2017年 いおがわ社会保険労務士事務所開業
2018年 キャリアコンサルタント登録
2018年~日本年金機構山口年金事務所にて年金お客様相談窓口対応
2019年 特定社会保険労務士の付記
2020年 山口県働き方改革アドバイザー登録
2020年~2022年 厚生労働省委託事業働き方改革サポートオフィス山口にて専門家派遣
2020年~全国社会保険労務士会連合会 企業主導型保育施設への労務監査 監査員
2020年 労働者健康安全機構 治療と仕事の両立支援コーディネーター
2021年~厚生労働省委託事業にて女性活躍推進アドバイザー
2023年 ハラスメント防止コンサルタント(公益財団法人 21世紀職業財団)

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