相談体制の整備について
~適切に対応できるようにするために会社がすべきこと~

令和4年4月1日より、労働施策総合推進法が改正され、中小企業においても、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。法律改正から約1年半が経ち、各企業においては、ハラスメント研修・相談窓口設置・就業規則について、一通り整備が完了している頃だと思います。そこで、今回は相談体制の整備について、深掘りしたいと思います。

指針にはどう書かれているか?

 事業主には、“相談に対応するために必要な体制の整備を行うこと”が求められますが、それは、単に相談窓口を設置し、その窓口を社員に周知するだけでは足りません。指針では、「相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること」が求められており「相談窓口の担当者が適切に対応することができるようにしていると認められる例」として、次の①~③が例として挙げられています。

【指針から抜粋】

  1. 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
  2. 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
  3. 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。

例えば「わが社の相談窓口は、法務部の〇〇さんと総務部の△△さんです」というように、担当者を決めるだけでは足りず、相談マニュアルを作成する・相談対応における研修を受講させるなど、相談者がしっかり相談対応出来るようにすることまでが措置義務の範囲となっているのです。

なぜ相談担当者に研修が必要なのか

 相談窓口担当者向けの研修を実施すると、受講者より「相談を聞くという行為がこんなに難しいとは思わなかった。トレーニングが必要だと感じた」という意見が多く寄せられることがあります。

研修等を受講していない担当者は、相談対応中に、「あの人はああいう言い方をする人なので、気にしない方がいいですよ」「それくらいはパワハラとはいえませんね」と勝手に自分の経験則でアドバイスや断定をしてしまうことがあります。また、相談担当者自身の中に、「若い子は打たれ弱い」「成長のためには少々強く指導すべきだ」という思い込みがあり、自分にその思い込みがあることに気付かず、相談に乗ってしまった場合はどうでしょうか。いずれの場合も、相談者は“勇気を振り絞って相談したのに、これ以上話しても無駄だな”と感じてしまう可能性が高くなります。相談者からしっかりヒアリングできなければ、会社としては、事実関係を把握することもできず、その相談事例について解決に向けた対応が出来ません。また、相談者はハラスメントを受けたという悩みに加え、その後の会社の対応にも不満を感じるようになり、ますます悪い方へ発展してしまう可能性があります。

一歩進んだ取組を

 窓口の不適切な対応による二次被害を防ぐためにも、また良かれと思って発した言葉で相手を傷つけてしまうことのないよう、相談者と担当者の両方を守る意味でも、担当者への研修や、相談対応マニュアルの作成は必ず実施した方がよいでしょう。

法改正直後は、“とりあえず相談窓口担当者を決めただけ”という企業も多いかもしれませんが、実際に相談があってからでは遅いのです。法改正から1年以上経ったいま、もう一歩進んだ取組をすることが求められています。

著者:SRCパートナーコンサルタント 谷口 陽子

社会保険労務士
ハラスメント防止コンサルタント
キャリアコンサルタント

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