男性の育児参加とパタニティハラスメント
男性の育児休業取得率の推移
男性の育児休業は、長らく低調な推移を維持してきましたが、令和に入り右肩上がりに増えています。令和4年度の男性の育児休業取得率は、過去最高の17.13%に達しました。
2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」では、男性の育休取得率の政府目標を2025年に50%、2030年に85%とする方針が示されています。公務員や大企業では積極的に促進する傾向がみられますが、今後は中小企業においても広く一般化していくものと推測されます。
皆さんの職場は、ママさんだけでなく、パパさんも育児休業を取りやすい職場環境になっていますか?
妊娠・出産・育児にまつわるハラスメントの実態
女性従業員の妊娠・出産・育児にまつわるハラスメントのマタニティハラスメント(以下「マタハラ」)に対して、男性従業員の育児休業など育児参加にまつわるハラスメントはパタニティハラスメント(以下「パタハラ」)と呼ばれています。
令和2年度の職場のハラスメント実態調査では、妊娠・出産・育児に伴うハラスメントに関して、男性労働者、女性労働者の差はなく、4人に1人が「ハラスメントを受けた」と回答しました。また、ハラスメントの行為者に関する問いでも、上司(役員以外)が男性労働者、女性労働者ともに6割を超えています。妊娠・出産・育児と、子どものために頑張るパパさん、ママさんにとって風当たりの厳しい職場が少なくない状況がみえてきます。
対象者:過去5年間に就業中に妊娠/出産した女性労働者
マタハラを受けた:26.3%
マタハラの行為者:上司(役員以外)62.7%
会社の幹部(役員)30.4% 同僚20.5%
心身への影響:「怒りや不満、不安を感じた」69.2%
「仕事に対する意欲が減退」52.9%対象者:過去5年間に勤務先の育児制度を利用しようとした男性労働者
(厚生労働省「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」より抜粋)
パタハラを受けた:26.2%
パタハラの行為者:上司(役員以外)66.4%
会社の幹部(役員)34.4%
心身への影響:「怒りや不満、不安を感じた」65.6%
「仕事に対する意欲が減退」53.4%
さらに上記の実態調査では、過去5年間に勤務先の育児制度を利用しようとした男性労働者の42.7%が「育児休業の取得をあきらめた」と回答しました。パパさんが育児休業の取得をあきらめる理由は、どこにあるのでしょうか。育児休業など制度利用へのハラスメント、職場の性別役割意識について取り上げます。
育児休業等の制度利用へのハラスメント
育児休業などの制度等を利用する(利用しようとする・利用した)労働者に対してのハラスメントは、主に3つに分類できます。ハラスメント行為は、上司だけでなく、同僚による繰り返しや継続的な言動も該当します。
①上司による解雇その他不利益な取り扱いを示唆する言動
→1回でもハラスメントに該当。
(例)上司「育休を取るなら辞めてもらう」「復帰しても昇進がなくなる」
②上司や同僚による客観的に見て制度等の利用をあきらめざるを得ない状況になる言動
→上司は1回でもハラスメントに該当、同僚は繰り返しや継続的な場合に該当。
(例)上司「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」
同僚「自分なら育児休業は取得しない。迷惑だ。取るべきじゃない」
③上司や同僚による制度等を利用したことによる嫌がらせ
→繰り返しや継続的な場合に該当。
(例)上司・同僚「所定外労働の制限をしている人に大した仕事は任せられない」
「自分だけ短時間勤務するなんて周りを考えていない。迷惑だ」と繰り返す
職場の性別役割に関する意識調査
内閣府の令和2年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス 1)に関する調査結果 2のうち、若い世代の男性ほど、職場における性別役割について「そう思う」傾向が強かったものをあげています。
男性の育児休業等へのハラスメント対策
育児休業等の制度利用へのハラスメント、職場の性別役割の意識調査の結果をみても、上司や役員だけでなく、若い世代を含む全ての社員に向けたハラスメント対策が必要です。
1.ハラスメント研修、アンコンシャス・バイアス研修
2.男性の育児休業等の制度理解を促進
・わかりやすい説明資料、基本知識の共有
・育児休業経験者へのインタビュー、社内外への発信
3.相談窓口の設置と社内周知
4.育児休業を取得しやすい環境整備
・早めに相談できる関係づくり、ルーティン業務のDX化促進 など
男女とも若いうちから高齢になるまで元気なうちは働き続ける社会になりつつあります。子の育児に限らず、働きながら孫の育児に参加する世代も増えています。男性が育児休業を取りやすい職場は、男性も女性も活躍できる環境づくりにつながります。
SRCハラスメント防止センターでは、アンコンシャス・バイアス研修をはじめ、ハラスメントに関するご相談に対応しています。お気軽にご相談ください。
著者:SRCパートナーコンサルタント 上野 雅子
略歴
山口県出身。
2022年 新宿区にsemina社会保険労務士事務所開業。
同年 産業カウンセラー登録。健康経営エキスパートアドバイザー認定。
保有資格
- 社会保険労務士
- 産業カウンセラー
- ハラスメント防止コンサルタント
- 健康経営エキスパートアドバイザー
- 第2種衛生管理者
脚注
- 過去の経験や情報をもとに無意識に思い込むこと。性別に対する役割への無意識の思い込みは、ハラスメントの要因につながります。
- 男女共同参画局 令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究