マタハラ防止のための現場の対策とは

女性の育児休業取得率は、8割を超えた状態がもう10年以上続き、数字の上では当たり前になりつつあります。
また、育休取得後に短時間勤務で復帰するというのも、よく見られるところです。

しかし、育休はともかく、短時間勤務が職場で「当たり前」に受け止められているかというと、まだまだそこまではいっていません。
短時間勤務で、しかもお子さんの急な病気などで休みが多くなると、周りも「迷惑だ」と思い、ご本人も罪悪感をもってしまうという状況が珍しくありません。

さらに、男性の場合は、育休取得自体が、「当たり前」どころか「珍しい」という状況で、職場の理解もなく、本人も取得をためらってしまうことも多いでしょう。

男性・女性に関わりなく、介護を担いながら働き続ける人も増加しています。
このような人たちも、やはり休んだり、遅刻・早退が多くなります。

産休・育休・短時間勤務等は労働者の権利であり、拒否したり、嫌味を言ったりすると、マタニティ・ハラスメント(「妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント」をここではこのように呼びます)になってしまうことは、管理職であれば、当然知っていることですね。

とはいっても、現実に、育休などで長期の休暇をとる人や、しょっちゅう休む人がいると、現場が回らない。
他の部下からも「あの人が休みが多いので、しわ寄せがこちらに来てしまっています」という訴えがある。
板挟みになって悩んでいるのではないでしょうか。

そのようなとき、管理職としてどのように対応したらよいのか、3点お伝えしましょう。

1.経営者に人手不足であることを繰り返し伝える

マタニティ・ハラスメントの背景には、必ず人手不足があります。

余裕がある職場であれば、同僚のおめでたは祝福し、介護等については応援する雰囲気があるものですが、そうできないのは、「だれかが休むと自分の仕事が増える=自分は被害を受けている」という感情があるからです。

「自分は被害者だ」と思ってしまうと、「休む人=加害者」という認識になり、嫌味を言う等の攻撃的な態度になってしまう人も出てきます。
管理職自身も、休みを申告されると、思わずしかめつらになったり、「迷惑だ」という気持ちをむきだしにしてしまう場合もあります。

しかし、被害を受けているのは確かだとしても、加害者は「休む人」なのでしょうか。

出産・育児・介護等の人生の大きなイベントを迎えたら、他の人に被害を与えてしまう。
これは、明らかにおかしいですよね。
日本が少子化になるのも無理はない、という誤った考え方です。

加害者という言葉はあたらないかもしれませんが、「休む人のしわよせで負担が増える」という点について責任があるのは、経営者です。
「休む人」に感情的にあたる前に、経営者に責任を求めるべきですし、そうしないことには人手不足の解決にも結びつきません。

「経営者だって人手不足の状態はわかっている」と管理職は思っているかもしれませんが、現場からなんの声もあがってこない状態では、経営者は「たいへんはたいへんだけど、なんとか回っている」と思って、対応が後回しになってしまうものなのです。

管理職は職場の代表として、自分の上司や経営者に現場の声を伝える責任があります。

育児・介護をしている人に対して、マタハラを起こす危険性があるほど職場がギスギスしていると思ったら、経営者に具体的に状況を伝え、このままでは離職者が出てしまい、さらに人のやりくりが逼迫する可能性があると、繰り返し訴えましょう。

2.仕事の割り振りを見直す

産休・育休・介護休暇という長期の休暇に入ることは、ある程度事前にわかります。
とくに産休・育休は、妊娠したことがわかった時点から計画できますので、通常は半年以上余裕があります。
その間に、本人にも引継ぎ書を作成してもらい、妊娠中にいままで通り働けない場合も含めて、周りのスタッフもいっしょに、仕事の割り振りを見直しましょう。

これがちゃんとできておらず、ただ、「○○さんが引き継いで」といったざっくりした指示になっていることが多いようです。
こんな状態では、引き継いだ人が、被害者意識を持つのも無理ないでしょう。

短時間勤務の人も、育休から復帰したのだから前の仕事そのまま、というのではなく、仕事の質・量を、短時間に見合う内容に見直しましょう。

8時間でやっていた仕事を6時間でやろうしても、通常は回りません。
また、最初に書いたように、子どもが乳幼児のうちは、急な病気が多く、休みも多くなります。
本人もあせりや不安を抱え、周りも不満を持つということになってしまいます。

ポイントは、休む人の業務を細かいタスクに分解して、タスクごとにどのように対処するか考え、複数の人に分散させることです。
外注を利用したり、短期のアルバイトや派遣社員を入れるということも、選択肢に入ってきます。

このようにきちんと休む人の業務を分析して対策を考えると、ただ、「人が足りない! 忙しい!」ではなく、どの程度、どのような対処が必要か、具体的にわかるので、1で触れた経営者への進言にも説得力が出てきますね。

3.休むのはお互い様という雰囲気づくりをする

管理職は職場の要であり、管理職の態度は、部下の態度に大きく影響を与えます。

まずは、管理職自体が「人手不足でたいへんなのは、休む人の責任ではなく、経営上の課題である」ということを、しっかり頭に入れましょう。

管理職自身が、「休む人」に対して、おもしろからぬ思いを抱いていると、それは周りに伝わってしまいます。
とくに休みを申告されたとき、どのような態度をとっているのか、もう一度振り返ってみましょう。

そして、部下の中で「休む人」に対してきつく当たるような態度が見られたら、きちんと注意し、その部下の不満を時間をとって聴くことが大切です。
「注意」と「部下の不満を聴く」のどちらが欠けてもうまくいきません。
両方行う、というのが、ここでのポイントです。

上司は自分の考えを尊重してくれている、そして、人手不足解消のために工夫して対処している、そのような信頼感が、部署の雰囲気を作ります。

マタハラになってしまうような態度を管理職自身がしないのは基本ですが、部下の態度にも気を配ることで、ハラスメントを防止し、離職を防ぐことができます。

このコラムは、2022年12月20日配信のメルマガに掲載されたものです。

著者:SRCハラスメント防止コンサルタント 李怜香

社会保険労務士
産業カウンセラー
ハラスメント防止コンサルタント
健康経営エキスパートアドバイザー

略歴

岐阜県生まれ。早稲田大学卒業。
1999年 社会保険労務士登録し、李社会保険労務士事務所(現 メンタルサポートろうむ)開業。
2011年 産業カウンセラー登録。
2012年 ハラスメント防止コンサルタント認定。公益財団法人21世紀職業財団ハラスメント防止客員講師に就任。
2013年~2019年 厚生労働省委託事業 パワハラ対策取組支援セミナーに登壇。
2016年~2017年 厚生労働省委託事業にて女性活躍推進アドバイザーとして活動。
2019年 健康経営エキスパートアドバイザー認定。
2020年 栃木県保健衛生事業団ハラスメント相談事業コンサルタントに就任。
2021年 厚生労働省委託事業 職場におけるハラスメント対策総合支援事業 派遣専門家として活動。

主な業務内容

・労務相談
・研修
・セミナー講師
・ハラスメント外部相談窓口
・ハラスメント事案に関するコンサルティング
・ハラスメント事案のヒアリング調査


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