介護現場におけるハラスメント対策

カスハラ防止は業種等の実情に応じて

職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ等)、パワーハラスメント(パワハラ)に対しては、事業主に防止措置が義務づけられましたが、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応については、法的な義務となっていません。

とはいえ、いわゆるパワハラ防止指針 1においても、カスハラによって雇用する労働者が就業環境を害されることがないよう、雇用管理上の配慮を行うことが望ましいとされています。

カスハラとは、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為のことです。

カスハラへの対応は義務ではありませんが、事業主がこれを放置すれば、安全配慮義務違反や使用者責任等の観点から法的責任を追及される場合もあります。なにより、労働者が安心して働ける環境が損なわれ、メンタルヘルス不調をきたす場合もあり、離職につながりかねません。

2022年2月には、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」 2を作成しましたが、カスハラは業種・業態等によって状況が異なるため、被害の実態や業務の特性等を踏まえ、業種等ごとに実情に応じたマニュアルを作成し、対策を進める必要があるでしょう。

介護現場におけるハラスメントとは

介護現場での「カスハラ」、すなわち「介護現場におけるハラスメント」についても、近年、少なからず発生していることが様々な調査で明らかになっています。

「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」 3では、介護サービスの利用者やその家族等からの、以下のような行為を総称して「介護現場におけるハラスメント」としています。

1)身体的暴力…身体的な力を使って危害を及ぼす行為。

例:コップをなげつける/蹴られる/唾を吐く

2)精神的暴力…個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。

例:大声を発する/怒鳴る/特定の職員にいやがらせをする/「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する

3)セクシュアルハラスメント…意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。

例:必要もなく手や腕を触る/抱きしめる/入浴介助中、あからさまに性的な話をする

ただし、認知症等の病気または障害の症状として現れた言動は、「ハラスメント」としてではなく、医療的なケアによってアプローチする必要があります。事前の情報収集等(医師の評価等)を行い、施設・事業所として、ケアマネジャーや医師、行政等と連携する等による適切な体制で組織的に対応することが必要とされます。

とはいえ、認知症等の病気または障害に起因する暴言・暴力であっても、労働者の安全に配慮する必要があることには変わりありません。

どの業種でもいえることではありますが、暴言・暴力等を受けた場合には、労働者が一人で問題を抱え込まず、上長や施設・事業所へ適切に報告・共有できるような仕組みを作っておくことが大切です。

介護現場におけるハラスメント対策推進の動き

今後の日本社会のさらなる高齢化に対応するため、介護人材を安定的に確保し、介護職員が安心して働くことのできる職場環境・労働環境を整えることは必要不可欠です。

そこで、令和3年度介護報酬改定において、介護サービス事業者の適切なハラスメント対策を強化する観点から、全ての介護サービス事業者に、ハラスメント対策として必要な措置を講ずることを義務づけました。併せて、カスハラについては、その防止のための方針の明確化等の必要な措置を講じることを推奨しています。

厚生労働省は、サイト「介護現場におけるハラスメント対策」 4において、対策マニュアルや研修の手引き、事例集等を公開していますし、介護報酬上の対応や地域医療介護総合確保基金を活用した助成等、ハラスメント対策への支援も始めています。

介護現場におけるハラスメント対応として取り組むべきこと

前述の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、「組織として対応するための必要な体制を構築し、予防や対策に向けた基本方針や具体的な対応を検討すること、基本方針や具体的な対応策を周知し、これに基づき職員1人1人が日々の予防や対応を行うことが重要」であり、また、「施設・事業所内だけで対応することが難しい場合には、地域の関係者と連携して対策や対応をとることが必要」であるとしています。

出典: 「介護現場におけるハラスメン対策マニュアル」令和4(2022)年3月改訂

私個人としても、親を通所リハビリテーションに通わせており、介護職員の皆様に支えられているので、私たち利用者やその家族がハラスメント行為者にならないようにしなければ、とも思いますし、介護現場で働く方々がハラスメントで傷ついたり離職したりすることがないように、とも願っています。

また、ハラスメント専門社労士としても、「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」や研修の手引き等を活用しながら、介護事業所のハラスメント対応体制の構築や研修の実施等でお役に立ちたいと考えています。

このコラムは、2024年2月21日配信のメルマガに掲載されたものです。

著者:SRCパートナーコンサルタント 押野りか

社会保険労務士(岡山県社会保険労務士会 会員) 
ハラスメント防止コンサルタント、ハラスメント防止研修客員講師(公益財団法人 21世紀職業財団 認定)
アンガーマネジメント ファシリテーター (日本アンガーマネジメント協会認定)
アンガーマネジメント ハラスメント防止アドバイザー(同上)
アンガーマネジメント トレーナー(同上)

略歴

岡山県生まれ。
広島大学附属福山高等学校卒業。
岡山大学文学部卒業。
2010年 社会保険労務士登録、押野労務サポートオフィス開業。
2012年~2014年 倉敷労働基準監督署 非常勤職員として勤務。
2014年~2015年 はじめての社労士入門講座(はぁもにぃ倉敷)を担当。
2014年~2019年 岡山県社会保険労務士会 労働条件審査 監査員として活動。
2015年~2017年 ユーキャン社会保険労務士講座 非常勤講師として教室講義を担当。
2015年~現在 岡山県社会保険労務士会 学校向け出前講座講師として活動。
2018年~2019年 岡山県委託事業にて女性活躍・WLB(ワーク・ライフ・バランス)アドバイザーとして活動。
2019年~2020年 公共職業訓練 総務・経理事務課を担当。
2019年~現在 岡山働き方改革推進支援センター登録専門家として活動。
2020年~現在 全国社会保険労務士会連合会 企業主導型保育施設への労務監査 監査員として活動。
2022年 公益財団法人21世紀職業財団 ハラスメント防止コンサルタント認定、ハラスメント防止客員講師に就任。
2022年 新見公立大学 非常勤講師に就任。

主な業務内容

・就業規則作成・変更
・労務相談
・セミナー講師


脚注

  1. 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号) 
  2. 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月) 
  3. 「介護現場におけるハラスメン対策マニュアル」令和4(2022)年3月改訂 
  4. 「介護現場におけるハラスメン対策」(厚生労働省) 

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