ハラスメント防止対策は、企業価値を向上させる「人材への投資」
無形資産と経済成長
今、無形資産の重要性が注目されています。
経済産業省の令和4年版「通商白書」によると「米国の代表的な株価指数であるS&P500に採用されている企業の市場価値を要因分解すると、2015年時点で84%が無形資産であり、欧州のS&P Europe350に採用されている企業の市場価値は71%が無形資産としている一方で、我が国の日経225に採用されている企業を含め、アジア諸国では企業価値に占める無形資産の割合が比較的低い」と記載され、企業が競争を優位に進めていく上で、無形資産への投資が重要であると示しています。
無形資産とは
無形資産とは、「知的資産、人的資産、社会・関係資産」に大別されます。
「知的資産」は、特許や商標権、著作権などです。「人的資産」は、熟練工や専門家等が持つ技能や知識などです。「社会・関係資産」は、企業文化、生産体制、プロセス、マニュアルなどです。
これら3つの無形資産の中でも「人的資産」は、デジタル化や脱炭素化、コロナ禍における人々の意識の変化など、経営戦略と人材戦略の連動を難しくする経営環境の変化が顕在化するにつれ、非財務情報の中核に位置する課題となり、経営戦略と連動させるべき、その重みを増してきています。
企業にとって「人材」は、これまで「資源」として捉えられていましたが、「資本」と捉えると、コストではなく、育成投資していく対象へと変わります。
そして、経営戦略から検討すればハラスメント防止対策は、その影響の大きさから最も優先すべき取組みになると考えます。
ハラスメント防止対策への取組評価
2020年6月(中小企業は、2022年4月)からパワハラ防止措置義務が事業主の義務になりました。また、職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止対策も強化されました。
法改正から大企業はすでに3年、中小企業でも1年経過しましたが、企業はハラスメント防止に積極的に取り組んでいることをすべてのステークホルダーに、人的資本に関する情報として開示できているでしょうか。
令和2年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(労働者等調査)」によりますと、勤務先が行うハラスメントの取組内容としては、「ハラスメントの内容、行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」が62.9%で最も多く、次いで「相談窓口の設置と周知」が、52.1%でした。
また、勤務先の取組評価を従業員規模別でみると、「積極的に取り組んでいる」と回答した割合は1,000人以上の企業でも26.9%しかなく、「あまり取り組んでいない」と回答した割合は100~299 人以下の企業で25.8%でした。
「わからない」と回答した割合は、99 人以下の企業で12.8%でした。
図:勤務先の取組評価(従業員規模別)
ハラスメント防止対策は、企業価値を向上させる「人材への投資」
2023年3月からコロナ対策が緩和され、経済状態も元に戻りつつあります。人出不足は加速しています。今後は、従業員や社会から「選ばれる会社」でないと生き残ることが難しくなっていくと予想されます。
企業が良い「人材」を採用し、定着させ、「価値を生み出すもの」として育成するためには、職場環境を整えるハラスメント防止対策が欠かせません。
企業規模に関わらず、ハラスメント防止対策は、企業価値を向上させる「人材への投資」です。
「ハラスメントの内容、行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」、「相談窓口の設置と周知」に加えて、ハラスメント防止研修の継続及び相談窓口対応の充実に積極的に取り組み、企業価値を向上させましょう。
このコラムは、2023年3月20日配信のメルマガに掲載されたものです。
著者:SRCハラスメント防止コンサルタント 沼田博子
大阪府出身。関西大学大学院商学研究科卒
流通業、人材派遣業を経て社会保険労務士として開業
1996年 社会保険労務士事務所 開業
2001年 有限会社マンパワーマネジメントシステムズ設立 取締役就任
2015年 一般社団法人SRストレスチェック支援センター
(現、未来のワークデザイン研究所)設立 代表理事 就任
2016年~2020年 関西大学会計専門職大学院 非常勤講師
2017年 社会保険労務士法人ハーネスに組織改編 代表就任
保有資格
特定社会保険労務士、シニア産業カウンセラー、ハラスメント防止コンサルタント、キャリアコンサルタント、アンガ―マネジメントファシリテーター、
アンコンシャスバイアス認定トレーナー、プロティアン認定ファシリテーター
衛生工学衛生管理者、公認不正検査士、リフレクションカード・トレーニングプロ
主な業務内容
・労務相談
・心と身体の健康管理(メンタルヘルス・ハラスメント対応含む)
・多様な働き方制度設計(週休3日制、短時間正社員、テレワーク、再雇用制度)
・両立支援(育児・介護・疾病等)のための人事制度構築
・賃金・人事評価制度見直し(ジョブ型、同一労働同一賃金対応)
・高齢者活用(キャリアデザイン研修)