ハラスメント防止のために―"見て見ぬふり”を減らすには

「見て見ぬふりをする」行為

昨年(2022年)の静岡県で起きた保育園での不適切な保育で、気になったことがありました。それは、他の保育士が「見て見ぬふりをしていた」ということです。全国的調査でもそのようなことが起きていたと報道にありました。今回は、この「見て見ぬふりをする」について考えて見ました。

もし皆さんが冬の夕方、街中のビルの軒下で酔って寝ている人いたらどうしますか。
見て見ぬふりをし、通り過ぎますか。それとも声をかけてあげますか。警察に通報しますか。

傍観者効果とは

今回は援助が必要な場面において、自分以外の他の人が複数人存在すると、援助行動が抑制される「傍観者効果」についてお話しさせていただきます。

1964年の真夜中、ニューヨークの街中で、20代の女性が仕事を終え、アパート近くに来た時、待ち伏せた暴漢に襲われました。彼女は30分もの間助けを呼んだが、誰も警察に通報せず、助けに行かなかったというキティ.ジェノビース事件がありました。その時38人もの人が、叫び声を聞き、見ていたというのです。犯人は、一度は現場を離れたが戻ってきて、彼女はとうとう殺害されてしまいました。とてもいたましい事件です。

マスコミは、「都会の人は、冷たい」と批判しました。ラタネとダーリの2人の社会心理学者は、その論評を疑問に思い、ニューヨークの学生を被験者として様々な実験を行い、生まれたのが「傍観者効果」という言葉です。これは、援助行動は、援助が必要なとき、居合わせた人の数が多くなるほど、起こりにくく、起っても遅く起きるいう社会集団心理が働くというものです。

傍観者効果の要因

保育園に限らず、学校でのいじめ、職場内でのハラスメントの場面でも見て見ぬふりをすることが起きています。

この要因の一つ目はモデリング機制です。援助が必等なときに、居合わせた人が他の人の行動を見て自分の行動を決めるというものです。消極的な行動がその場面では、適切な行動であると判断し、居合わせた人がお互い真似すれば、結果的に誰も助けなくなることが起きます。

二つ目は責任の分散機制です。これは自分が行動しなくても誰かがするだろう。他者と同じ行動をすることで責任や避難が分散されると判断し、結果的に誰も助けなくなる機制が働くというものです。

三つ目は評価懸念です。自分の行動に対して与えられる他人の評価を気にして行動を起こさなくなるというものです。

「見て見ぬふり」を減らすには

改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行されて会社の相談窓口は機能していますか。
守秘義務が確保されていれば、通報しやすく、早く対処することができます。

また、「傍観者効果」についてハラスメント防止研修に取り入れるだけでも、「見て見ぬふりをする」ことが減るのではと私は考えます。

さて、冒頭で、お聞きした質問ですが、これは去年の12月に私が遭遇しました。
私の前を歩いていた青年が、酔っぱらいに話かけているのが見え、そして立ち去っていくところでした。私は彼を追いかけ、お聞きしました。「あの方とお話出来たのでしょうか。」「いいえ、できませんでした。あそこに交番があるので、今からお話しして来ます」と言われました。こんな素晴らしい青年がいることに心温まった瞬間でした。

参考資料

堀 洋道他 2004 「社会心理学」福村出版 
松原 達哉 2004 「臨床心理学 シリーズ1 心理学概論」培風館

このコラムは、2023年2月20日配信のメルマガに掲載されたものです。

著者:SRCパートナーコンサルタント 西村 多加枝

社会保険労務士
ハラスメント防止コンサルタント
産業カウンセラー
キャリアコンサルタント


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。